あるアーティストへの敬意を込めて、さまざまなミュージシャンがそのアーティストの曲をそれぞれの解釈に基づいてカヴァーした、いわゆる“トリビュート・アルバム”が一般的に知られるようになって、もう10年以上になる。
これまでに作られたそうしたアルバムの数は、100をはるかに越えるだろう。しかし、内外で発表されたそれらの作品郡は、当然のことだが、いいものもあればつまらないものもある。なかには何を考えているのかわからないようなひどい演奏もあって、これでは賛辞というよりは悔辱ではないか、と思ってしまうことも少なくない。
1996年に作られた佐野元春に対するトリビュート・アルバム『BORDER』は、山と積まれたこの種のアルバムのなかではまちがいなく玉石混淆の“玉”の方だ。
収められているのは10アーティストによる10曲。グルーヴァーズの「ニュー・エイジ」は、ルー・リード作の同名異曲があったことを思い出させる力強いロックンロールに仕上がっているし、グレイト3による「サンチャイルドは僕の友達」の暗い情感に満ちた演奏には、批評性に満ちた独自の解釈がうかがえる。ヒートウェイブの「君を連れてゆく」で山口
洋は、それがまるで自分が書いた曲であるかのように、あるいはヴァン・モリソンの曲であるかのように、真剣にうたっている。
Hal From Apollo'69による「サンデイ・モーニング・ブルー」の“テクノ・ヴァージョン”には、テクノにはめずらしい美しい叙情が浮かび上がるし、このアルバムのプロデューサーでもある佐藤奈々子の「99ブルース」も、繰り返し聴きたくなるような、抗しがたい魅力がある。
佐野元春がソングライターとして並々ならぬ才能の持ち主であることは、いまさら言うまでもないが、このアルバムに収められたさまざまな歌と演奏を聴いてあらためて感じるのは、彼の曲が持つイマジネーションの豊かさだ。佐野元春は、われわれが考えているよりもさらにもっと優れたソングライターなのかもしれない。そのことを、このトリビュート・アルバムに参加したアーティストたちは口々に主張している。
●参考資料
「Border」に寄せた奈々子メッセージ
「Borderサイト」