06 | In motion 2001 - 植民地の夜は更けて 2001-2002

 2001年9月21〜22日、鎌倉芸術館小ホールで開催されたスポークンワーズのライヴ・アピアランス。これまでにもレコーディングやライヴで何度か共演したことのある同世代のアーティスト、井上鑑とのコラボレーションによるもので、山木秀夫、高水健司、山本拓夫という凄腕のミュージシャンたちがセッションに参加している。

 1985年にリリースされたカセットブック『ELECTRIC GARDEN』以来、スポークンワーズという表現フォームで先駆的なトライアルを試みてきた佐野元春にとって、その集大成とも言えるライヴ・イヴェントであったが、それは彼のスポークンワーズが常に進化し続けていることを証明するものでもあった。あの「9.11」のアメリカ同時多発テロ事件の直後に行なわれたこのセッションでは、当時の現実世界を覆いつつあった戦争の狂気を激しく切り結ぶ佐野のアグレッシヴな言語表現の数々は驚くほど辛辣なものだった。しかし、それらの表現は同時に彼らしいユーモアのセンスも決して失ってはいなかった。

 言葉と音のインタープレイをフィーチュアした佐野と井上鑑Foundationの即興的なパフォーマンスは、いわゆる「詩の朗読」という既成の枠組みでは到底捉えることのできない斬新なセンス・オブ・ワンダーに溢れていた。言葉と音楽というものは、その道の達人が遣えば、聴く者の魂をこれほどまでに激しく揺さぶるエモーショナルでスリリングな表現を可能にするのか、という新鮮な発見がそこにはある。

 そして、スポークンワーズの本当の醍醐味は音だけでは決して伝わらない、というのも新たな発見のひとつだった。オーディオCDよりはDVDのほうがベターだろうが、それでも実際のライヴには遠く及ばない。それは他のメディアでは絶対に味わうことのできない稀有な体験だった。あの2日間に行なわれた3回の公演に参加できた観客は本当に幸運だ。

(吉原聖洋)

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