14.Jul.01 at Aichi Koseinenkinkaikan



 もはや「雨が降るかもしれない」などと思う者はひとりもいない。クルーの誰もが当然晴れるものだと考えている。言うまでもなく名古屋の空も快晴だ。新幹線から降りた途端に熱気が身体中にまとわりついてくる。実際には気温よりもむしろ湿度が高いのだろうが、体感的にはこのツアーで訪れた街の中でも最も暑い。

 名古屋駅構内で改札口に向かって歩いている途中で刑事や警官に止められる。ホーボー・キング・キャラヴァンは二つに分断され、後方を歩いていたKYON、古田、筆者が取り残された。KYONか古田が何か悪いことをしたのだろうか、俺は何もやってないぞ、などと他人のせいにしようとしていたら、眼の前を小泉首相ご一行様がぞろぞろと大名行列のように通り過ぎる。どうやら参院選のための地方遊説で名古屋を訪れているらしい。首相がこちらに向けて手を振ってくれたので、常にノリのよい古田と一緒に「イエイ」などと叫びながら拍手する。彼の政党に投票するかどうかはまた別の話だが。

 初めて訪れる筆者が頭の中で勝手にイメージしていたよりも愛知厚生年金会館はコンパクトな印象のホールだ。佐野自身の記憶では1982年にこのホールで演奏したことがあるという。19年前の若き佐野元春がこのステージの上で吠えている姿を夢想してみる。その背後では若き古田たかしがドラムスを叩いていたはずだ。そんなことを考えていたせいか、今夜のコンサートでは何度か19年前にタイムスリップしてしまった。

 過去と未来がひとつに溶け合い、それでいて紛れもなく今この瞬間でしかあり得ない佐野とH.K.B.の現在がそこにはある。今夜のギグが特別なものになるという予感はあった。すべての夜が一生に一度の夜であることは間違いないが、それでも特別な夜はやはり突然訪れる。佐野はまるで今夜がこのツアーのファイナル・ギグだと思い込んでいるかのような桁外れの速度と強度でバンドを先導していく。少なくともアンコールでの彼は明日のことをまったく考えていなかった。19年前の若き佐野元春がそうだったように。

 ライヴ・パフォーマンスに「完璧」なんてものはあり得ないし、そもそもロックンロールにパーフェクトを求める者など誰もいないだろうが、「完璧」ではないとしても「極限」ではないかと思われるギグがツアーには何度かある。今夜の佐野とH.K.B.は“Rock & Soul Review”での「極限」を見せてくれた。そしてアンコールでの彼らは間違いなく最高速度で疾走し、このツアーでの最高飛行距離を記録した。ロックンロールの神様が実在するとしたら、今夜、彼(あるいは彼女?)が名古屋にいたことは間違いない。

 さて、今夜の君はどこまで飛べたかな?


 
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