ニュー・ジェネレーションのための佐野元春CDガイド
moto's note:
36歳の時に作った「青春」アルバム。このときようやく僕は、人生の多感だった頃を対象化して見る...

36歳の時に作った「青春」アルバム。このときようやく僕は、人生の多感だった頃を対象化して見ることができる年齢になった。青春映画を撮るベテラン映画監督のようなものか? 16歳で家出をして、ガラスのジェネレーション「つまらない大人にはなりたくない」から始まった僕の 'Grown up' ストーリーは今だまだ未完だが、このアルバムはその途中報告としてうまくまとめることができたと思う。全体を通して明るい陽光が射している、まばゆくてせつないアルバム。



MWS●『The Circle』の前にリリースされ、時期的にも差がなかったので『The Circle』と対になる作品と言われます。そういう意味でも『The Circle』を聴いたらぜひ『Sweet 16』も聴いてほしいという思いがあるのではないでしょうか。

佐野●'90年代での創作のピークで言えば、この『Sweet 16』とそれに続く『The Circle』をリリースしたこのあたりが、バンド「ザ・ハートランド」とのコラボレーションというところも併せてピークにあったと客観的に言えるね。『Sweet 16』は、ひとことで言えば本当に明るくて、光が差し込んでいるようなアルバム。このアルバムを聴いてくれるヤングリスナーたちの喜怒哀楽、生活、それを鮮やかに彩る音楽だと思う。

MWS●『Sweet 16』というタイトルは、チャック・ベリーから脈々と続くロックンロールの伝統的な言い回しです。これをアルバムタイトルにしたというのが何か大きな意味があったんでしょうか?

佐野●『Sweet 16』を作ったとき、僕はすでに36歳。もちろんティーンではないし、20代でもない。十分に成熟した大人だよね。10代、20代、多感な頃に書く青春ソングと、その時期を少し過ぎて書く青春ソングは違うんだよ。で、大人になった僕が青春時代を対象化して、冷静に「青春とは何だ?」ということを見つめてみたかった。そうして作り上げたのが『Sweet 16』なんだ。

それは言ってみれば、優れた青春映画を撮る映画監督のアティテュードと同じなんだね。だから、音楽的にもアルバムタイトルチューンである「Sweet 16」は、僕の大好きなバディ・ホリー、'50sのロックンロールのエッセンスを'90年代的に蘇らせた仕様になっていたりする。あるいは、このアルバムに収録して人気のあった「レインボー・イン・マイ・ソウル」という曲も、キラキラした青春のきらめきに満ち溢れている。すべてに光が差し込んでいる。僕が通り過ぎた素晴らしい一瞬の時代に対するオマージュという言い方もできる。

MWS●このアルバムに収録されている「ボヘミアン・グレイブヤード」も、10代の頃に誰もが意識的、無意識的にもつボヘミアンみたいなものへの憧れに対して「グレイブヤード」(墓場)、つまり行き着いた先、一番最後の終着点なのかもしれないという視点で作られています。「今の自分たちが最後に行き着く感覚・感情はここなのか」と思わせてくれる、すごい曲ですよね。

佐野●「ボヘミアン・グレイブヤード」というのは、佐野元春流の視点で書かれた曲だよね。世の中に満ちあふれている単純な青春ソングとはひと味もふた味も違う。そこには捻りも加えているし、シニカルさ、ユーモアもあるし、もちろん切なさもある。僕たちが常に若い頃から──まぁ、今でもそうなんだけど──「自由を追い求める気持ち」がある。しかしいつしか、自由を追い求めながら自由に縛られてしまうというジレンマに陥ち、ショックを受け、深く考えてしまうんだ。で、僕はその感情を、サラっと一言で表現したかった。「僕はどこにでも行けるさ、けれど僕はどこにも行けない」。「ボヘミアン・グレイブヤード」の最初のラインで、重たいことを軽く歌った。そうすると、ヤングリスナーたちは独特な鋭い感覚を持っているから、こうした表現を上手にキャッチしてくれるんだね。

佐野元春ポップというのは、何重にも積み重ねられたアップルパイのようなものなんだ。様々なものの見方を一枚一枚のパイの生地になぞって、それを重層的に重ねていく。でも、最終的には5歳や6歳の女の子たちも喜んでくれるような、おいしそうなケーキとして仕上げていく。それが、僕の最高のポップソングに対する考え方だし、『Sweet 16』に収録した曲はどれもアップルパイ方式で作られている。

初っ端の「ミスター・アウトサイド」もそうだ。「ミスター・アウトサイド」を書いているときに考えていことは「ミスター・アウトサイドって誰?」。もちろん、僕も特定は出来ないんだけれども、いくつかの候補の中に「日本」という国が入っていた。アジア圏における日本の存在、日本とは何かということを考えていたんだ。「ミスター・アウトサイド」の中で僕はこう歌っている。「償いの季節さ」。パイの中の本当に目立たない一枚の生地が、ヤングリスナーの心の中に浸透して、最後にたどり着く曲が「エイジアン・フラワーズ」。僕はこの曲をどう評価してよいのか、実は今は少し迷っている。ここに来て、日本の歴史観が問われているよね。日本の歴史の捉え方によって「エイジアン・フラワーズ」というのは、意味をカメレオンのように変えるはずだ。まぁ、それがポップソングとしてまた面白いところなんだけどもね。

MWS●最後に特筆すべき点は、「エイジアン・フラワーズ」にはオノヨーコさんとショーン・レノンさん。「また明日...」では矢野顕子さんという音楽的にもユニークなゲストが参加されていますね。

佐野●'80年代の佐野元春というのは、自分の中だけで完結していたんだけれども、'90年代に入って他のミュージシャン、他のクリエイターとコラボレーションしていくことに扉を開いていった最初の時期だったんだね。『Sweet 16』での彼らの参加というものは、僕にとって意味のあることです。
[収録曲]
1. ミスター・アウトサイド
2. スウィート16
3. レインボー・イン・マイ・ソウル
4. ポップチルドレン
- 最新マシンを手にした陽気な子供達

5. 廃墟の街
6. 誰かが君のドアを叩いてる
7. 君のせいじゃない
8. ボヘミアン・グレイブヤード
9. ハッピーエンド
10. ミスター・アウトサイド
 (Reprise)

11. エイジアン・フラワーズ
12. また明日...
※曲名をクリックすると試聴できます。(QuickTimeが必要です

スウィート16
レーベル:Epic Records
商品番号:ESCB1308
発売日 :1992.07.22
価 格 :¥2,854(税込)






_copyright 2006 M's Factory Music Publishers inc.