「ロッキング・オン」といえば日本を代表するロック・マガジンのひとつだが、その邦楽誌である「ロッキング・オン・ジャパン」に掲載された佐野元春のインタビューをまとめたのがこの「AS 10YEARS GO BY」だ。同誌が得意とする徹底的なロング・インタビューを全部で6本掲載(うち1本は語り下ろし)、デビューからアルバム「TIME OUT!」制作時までをカヴァーしている。
インタビュアーは音楽評論家でロッキング・オン社長でもある渋谷陽一。「自分のインタビュアーとしての能力をフル稼働しないと負けてしまう(あとがき)」という言葉のとおり、鋭い質問でいくつもの興味深い発言やエピソードを引き出しており、佐野の誠実で真面目な人柄と強い意志、そして少しばかり気まぐれで気分屋な一面までを見事に伝えて興味深い。
この本は同時に写真集でもある。フォトグラファーにはクラッシュなどイギリスのロック・ミュージシャンを撮り続けてきたペニー・スミスを起用。撮影はロンドンで行なわれ、佐野の表情が印象的なモノクロ写真に焼きつけられることになった。
この本を読めば、優れたインタビューというのが単なる聞き書きではなく、アーティストを素材にしたインタビュアーの「作品」だということがわかるし、またそこで素材にされるアーティストの知性や衝動、確信の質が厳しく問われていることも理解できる。
時にアーティスト自身も意識していなかった深層を引き出して語らせるインタビュアーとアーティストの「渡り合い」。タイトルどおり佐野のデビュー10周年を飾るアイテムとして、また資料としても価値の高い1冊だ。