07 | 特別番組「佐野元春ロックンロール・ポエトリー」
1993-1994



 さまざまなジャンルの人気アーティストを取り上げたNHK総合のシリーズ企画「ヒーロー列伝」として制作されたのが「ロックンロール・ポエトリー」。佐野元春の詩人としての側面を中心に、さらにライヴの映像(1993年1月の横浜アリーナにおける「See Far Miles Tour Part II」より)と海岸で収録されたインタヴューを挟みながら構成されたドキュメント番組だ。番組では、'60〜'80年代のロックンロールの歴史を追いながら、同時に佐野のソングライターとしてのバイオグラフィも追いかけ、解説していく。

 このドキュメント番組の中で最も興味深いシーンは、佐野が鴨川シーワールドの水族館でポエトリー・リーディングを披露する場面である。そこで朗読されたのは佐野の書籍である『ハートランドの手紙』の中で発表した散文詩「エーテルのための序章」の一部だった。

 2000年を迎えた現在、“スポークン・ワーズ”は若者たちの間でも音楽演奏以外の自己表現手段のひとつとして静かなブームとなりつつあるが、佐野にとってそれはデビュー当初から欠かせない重要なファクターだった。アルバム『VISITORS』ではそれがラップとして進化していったことは周知の通りだが、1984年から86年にかけて発表された『エレクトリック・ガーデン』は佐野がひとりの優れた詩人であることを証明したリーディング作品だった。

 この『ロックンロール・ポエトリー』という番組の主旨は、詩人としての佐野がいかに素晴らしい作品を発表しているか、という点に集中していく。番組の後半、浜辺でエレクトリック・ギターを掻き鳴らしながら「エーテルのための序章」をリーディングする佐野は実に気持ちよさそうだった。構成や編集も含めて、制作者の特別な“意志”が感じられるこの番組はひとつの“作品”として評価できるものだ。

(下村 誠)



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