11 | 書籍「ワン・フォー・ザ・ロード」
1993-1994



 マーケティングの文脈で論じるロック評論が主流の日本にあって、ロック音楽の思想や歴史の文脈で論じる評論家、山本智志氏の存在は貴重だ。それは氏が敬愛する米国の優れた音楽評論家、グリル・マーカス(Greil Marcus)の評論態度と共通している。

 

 山本氏はこれまでにも佐野関連の評論において、読みごたえのある文章を残してきている。最近では、アサヒグラフ(2000.4.7/通巻4,075号)に掲載された、20周年アニバーサリー・ライブ・ツアーのルポルタージュがある。

 その山本氏が、1995年3月に出版した佐野のライヴ・ドキュメントが、『ワン・フォー・ザ・ロード』(大榮出版)だ。佐野とザ・ハートランドの最後のツアーとなった「ザ・サークル・ツアー」に自ら同行し、ミュージシャンやクルーとともに“ロード”を体験することで書き下ろされたドキュメントであり、その内容はログブック(航海日誌)のスタイルでまとめられている。

 「ザ・サークル・ツアー」はよくあるような“解散”を売り物にしたツアーではなかった。この"事件"はツアー中に起こった誰もがまったく予期し得ないハプニングだった。偶然にも現場を目撃した山本氏は、この「ザ・ハートランド解散の瞬間」の様子を、ジャーナリストとしての透徹した視点と冷静な筆致によって克明に記録した。著作『ワン・フォー・ザ・ロード』が、真に秀逸なライヴ・ドキュメントととして成立している理由はまさにここにある。

 「ワン・フォー・ザ・ロード」で示された、ロック評論への謙虚なリスペクト精神は、これから評論を目指すものにとってもおおいに参考となるだろう。

●参考資料
出版に寄せた佐野からのコメント「ハートランドからの手紙#88

(高野ヒロシ)



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