顔の部分が丸く切り抜かれた観光地の記念撮影用のボードにおさまる佐野元春、パチンコ台に向かう佐野元春、ホワイト・ボードに落書きをする佐野元春……。普段は目に触れることのない舞台裏での佐野元春の意外な姿が収められた貴重な1冊、それがこの「フルーツ・ダイアリー」だ。
この本はもともと音楽評論家・能地祐子が、自ら主宰するウェブ・サイト「Nohji's
Rock'n Roll Shop」に掲載した「フルーツ・ツアー」、「フルーツ・パンチ」のライブ同行レポートと、その楽屋裏をレポートした“楽屋拝見”を1冊の本に構成したもの。
ツアーが進んで行くにつれて生き物のように変化し、成長するステージング。継続的にそれを追うことで、ミュージシャンがどのようにロードを“生きて”いるのか、あるいは逆にロードがいかにバンドを育てていくのかが明らかになっていく。このツアーでザ・インターナショナル・ホーボー・キング・バンド(後にザ・ホーボー・キング・バンド)が名実ともにひとつの共同体として成立し、それが次作『ザ・バーン』のウッドストック・レコーディングへと繋がっていく過程が手に取るようによく分かって興味深い。
後半の“楽屋拝見”では、冒頭で紹介したような佐野元春とバンドの舞台裏での姿が、筆者自身の手によるデジカメ写真で生き生きととらえられている。この“裏”のパートがあるからこそ、“表”のツアー・レポートもある種の実感を伴って立体的に、リアルに迫ってくるのだとも言えよう。楽屋で聞かれていたアルバムを掲載した「ロック喫茶HOBO
KING レコード・リスト」は資料としても重要かつ貴重だ。
最初に発表されたインターネットというメディアの特性も影響しているのだろうが、音楽評論家というよりはひとりのファンとしての筆者の率直な実感に根ざしている分、この本そのものも「開かれた」ものになった。