佐野のデビュー20周年を記念したツアー「The 20th Anniversary Tour」は、2000年1月29日の宮城県民ホールから開始し、3月11日の日本武道館まで全国主要8カ所・計9回の公演が行なわれた。
					
					
          
             
              |  フォトグラファー:岩岡吾郎
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						 会場に入ると、まず“689+9”という数式がプリントされたブルゾンを着込んだスタッフの姿が目につく。言わずもがな、佐野にとって最初のツアーとなった1980年の「Welcome 
						to the heartland」から始まった15ツアーのステージを数えた意匠である。
						
						 この数字は途方もなく長いロードの軌跡を思い浮かばせる。同時に、その数字の重みを知っている者たちは“+9”の現場に立ち会えることに静かな高揚感を抱いたのではないだろうか。オーディエンスのそれぞれが佐野との出会いに思いを馳せ、20周年という区切りを祝おうとうする気持ちが、どこの会場にも満ちていた。
						 
						 2部構成となったライヴは20年の歴史を振り返りながら、その多彩な足跡をたどるようなモト・クラシックの数々が用意された。しかし、ときには「マンハッタンブリッジにたたずんで」や「彼女」のようなファン泣かせの曲が飛び出したり、曲名に“2000ヴァージョン”と記した「レインガール」「ニューエイジ」で冒険心豊かな新アレンジを披露したりと、アニバーサリーの名にふさわしいお祭り的なセットである。 
						
						 そのお祭りをバックアップしたザ・ホーボー・キング・バンドも、20年という時間の大半を佐野と連れ添ったザ・ハートランドのマナーを継承しながら、バンドとしての熟成をあらわにした貫録たっぷりな演奏でオーディエンスの思いに共感してみせた。その彼らが、いつにも増してすこやかな表情を浮かべていたのも印象的である。
						
						 また、今回のツアーのホーン・セクションには関西出身の若手バンド「ブラックボトム・ブラスバンド」が参加した。ニューカマーらしい溌剌とした演奏はモト・クラシックスに忠実に、しかしアグレッシブな息吹を加えた。20周年という題目を単なる区切りと感じさせない、常に新しい試みにチャレンジしてきた“ロックンロール・マエストロ”佐野元春らしい編成力である。
						 
						 2部のラスト曲となった「イノセント」で会場の気持ちはひとつになり、やがてアンコールが始まる。3時間に及ぼうとするステージにも関わらず、オーディエンスの熱は冷めないどころかヒートアップする一方である。それは“689”のどこでも見慣れた光景だが、この“+9”の夜だけは違う――そう感じた者も多かっただろう。そこには確かに、ありきたりの言葉など通 
						用しない特別な意志の交歓があったのである。