2000年1月23日にオンエアされたCX系音楽TV番組「ミュージック・フェア」で佐野元春とエルヴィス・コステロとの競演が実現した。
佐野とコステロには因縁浅からぬ関係がある。ニュー・ウェイヴの時代に登場したときのアーティストとしてのスタンスにも似たところがあり、その音楽的な素養にも共通
点が少なくない。そして、コステロやニック・ロウとの仕事で知られるコリン・フェアリーを共同プロデューサーに迎えた1989年のアルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』のためのレコーディング・セッションで、コステロとの縁の深い英国のミュージシャンたちとの共演を経験した佐野は、ロンドンでのレコーディング中にはコステロ本人との対面も果たしている。
といっても、日英を代表する二人のソングライターの競演は決して和気藹々とした雰囲気の中で順調に進んだわけではなかったようだ。当初はキーボード奏者スティーヴ・ニーヴとのアコースティック・セットを予定していたコステロだが、リハーサルでの佐野とザ・ホーボー・キング・バンドの演奏を聴いて、「エレクトリック・ギターを使いたい」「ストリングスが必要だ」と言い出したという。
「負けるわけにはいかない」というミュージシャンとしてのコステロの意地がそこにはあったのだろう。そういった一触即発の雰囲気はテレビ画面
からも伝わってきた。しかしテレビの音楽番組としては珍しい緊張感の中で、佐野とザ・ホーボー・キング・バンドは素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
とりわけコステロの「She」に対抗してKYONが提案したという佐野のピアノ弾き語りによる「彼女」は多くのファンを酔わせ、“20thアニバーサリー・ツアー”でもハイライトのひとつとなった。