本書は1980年のレコード・デビューから1999年まで、ペーパーメディアを中心に語られた佐野の言葉を12の項目に分けて拾い集めた「自伝的発言集」である(メディアファクトリー/1500円)。
「citychild」「pop」「humor」「policy」「people」「capacity」「imagine」「songwriting」「album」「faces」「alive」「communique」……といった見出しで括られた発言の数々は、一見脈絡がなく、無造作に散らかった言葉の羅列に思われるかもしれない。しかし通
読するにつれ、読者はそのひとつひとつが「佐野元春」という人物の像を明らかにしていく気分を味わうことだろう。
そうした言葉の断片(ピース)をテーマ別に、かつクロノジカルに構成した編者の城山 隆は、編集後記にこのように書いている。
〈縦に横に、そして斜めにと、言葉のジグゾーパズルを愉しんだ。半年あまり、ニューアルバム『ストーンズ・アンド・エッグス』の制作終了と時期を一にして「佐野元春」ができあがった。完成したそれは、本人に似ているともいえたし、そうでないともいえた。ジグゾーパズルの「彼」が呟く。「俺は、文字からはみ出している」……〉
音楽を自己表現の道に選んだ佐野にとって、言葉はすべてではない。同時に、言葉がなくては自己表現が成り立たないことを承知している彼は、できるだけロジカルに、そしてクレーバーに物事を伝えようとする。そこにある矛盾をもどかしく感じながら、常に言葉に真摯に向かおうとする姿勢が佐野を饒舌にしていることも確かだ。
普段あまり語られることがない幼少時代のエピソードから、精神形成に影響された人物たちへのオマージュ、創作の裏側、作品解説、そして時代観……と、ランダムに並べたてられた短い発言を読み進めていくと、佐野の言葉はそれ自体が「音」を引き連れていることがわかる。
彼の人生と活動を追い求めるだけでなく、普段の創作で感じ取れるような言葉の「妙技」も楽しみたい一冊である。