12 | 限定盤「クラブミックス・コレクション1984-1999」
1999-2000



 '80年代前半の我が国のミュージック・シーンにいち早く“ヒップホップ”や“リミックス”の手法を導入し、“12インチ・シングル”というメディアを開拓し、“クラブ・ミックス”というジャンルを確立した先駆者・佐野元春がこれまでにリリースしてきたクラブ・ミックス・ヴァージョンやエクステンデッド・ミックス・ヴァージョンを集めたコンピレーション・アルバム。

 eTHISのみで発売された限定アナログ盤だが、アナログ・ディスクというメディアを選択してくれたことが何よりもうれしい。だって明らかに音が違うからね、デジタルとアナログでは。eTHISでのリリースだけではもったいないと思うけれど、昨今のレコード業界の悲惨な状況を考えれば無理もないか。
 
 音楽としての内容が充実していると同時に記録としての価値もあるこのアルバムが、街のレコード・ショップで購入できない事実は日本音楽界にとって大きな損失だと思うのだが、音楽の内容よりもブランド・ネームを高く評価し、歴史や伝統や先達に敬意を払う気持ちを持ち合わせていない現在の音楽界にそんなことを言っても馬の耳に念仏だろうな。
 
 音楽の価値を知っている佐野元春ファンとしてはこのアルバムを入手する機会を得られた幸運をロックンロールの神様に感謝するべきかもしれない。ジョン・ポトカーのリミックスによる1984年の「コンプリケーション・シェイクダウン」からオーディオ・アクティヴのリミックスによる1999年の「驚くに値しない」まで、佐野元春のヒップホップ的表現の深化とリミックスという手法の進化のプロセスを追体験しながら聴くことができる全8曲。
 
 買い逃してしまったアンラッキーな人たちは今頃後悔しているだろうな、きっと。

(吉原聖洋)



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