12 | 佐野元春のアナログ・7インチ・シングル
1986 -1988



 2000年でデビュー20周年を迎える佐野元春の最初のおよそ10年の間は、アナログ・ディスクの時代だった。彼もデビュー当初の作品はアナログ・ディスクのみの発売で、シングル盤もまた直径17センチの黒い塩化ヴィニールのレコードだった。

 5作目のアルバム『Cafe Bohemia』の発表当時は、アナログからコンパクト・ディスクへ推移する過渡期であり、この作品ではアナログ盤とCDの両方が同時に発売されている。佐野元春はこのアナログ盤に最後までこだわったアーティストと言えるかもしれない。


 ほとんどのミュージシャンの作品がCDに変わって行く中、佐野元春は最後までアナログのシングルをリリースし続けた。自らが設立したM's Factoryレーベルからは、アナログ7インチ・シングル「ストレンジ・デイズ──奇妙な日々 c/w アンジェリーナ(スロー・バージョン)」(1986年5月)、「シーズン・イン・ザ・サン──夏草の誘い c/w ルッキング・フォー・ア・ファイト──ひとりぼっちの反乱」(1986年7月)、「ワイルド・ハーツ──冒険者たち c/w シャドウズ・オブ・ザ・ストリート」(1986年9月)、「ガラスのジェネレーション(LIVE) c/w ダウンタウンボーイ」(1988年2月)などをリリースしている。

 さらにこれらの7インチ・アナログ・シングルは、ダブル・ジャケットでのリリースの上、ブックレット仕様という彼のアナログ・ディスクへのこだわりが窺える贅沢な作りになっていた。また、「警告どおり 計画どおり」はピクチャー・シングルで、ハード・ペーパーとともに透明のビニールに入れられていた。

 少し遡るが、85年にはカセット・ブック『Electric Garden』からも「リアルな現実 本気の現実」が7インチ・シングルでリリースされている。1990年代の後半になって、クラブ・カルチャーが生んだDJがブームとなり、再びアナログ・デイスクが脚光を浴び始めることを佐野元春は知っていたのだろうか。

 かつて彼に何故アナログ・ディスクにこだわるのかと尋ねたことがある。彼曰く「ロックンロールがそこから始まったから」。

(岩本晃市郎)



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