13 | 日本レコード協会ゴールド・ディスク受賞
1990-1992



 アメリカン・ポップス好きなら、ビルボード誌のチャート・アクションに胸を躍らせ、ゴールドやプラチナなど、ミリオン・ヒットのディスクを買いあさった経験があるはずだ。

 日本レコード協会が認定するゴールド・ディスクは、アルバムのセールスが20万枚を超えた作品が受賞する。選定は、レコードの正味売上(総出荷枚数から返品を差し引いたもの)という公正かつ客観的なデータに基づいて行なわれる。いわば正確なセールスが判断基準。1987年からはその年のレコード産業の発展に大きく貢献したアーティスト、及び作品を表彰し、広く音楽ファンにその功績を知らしめるため、「日本ゴールド・ディスク大賞」という賞も設立されている。

 ゴールド・ディスク ── ミュージシャンにとっては、勲章みたいなものかもしれない。ただ、売れるものがいいとは限らない、売れてないものでもいいものはある ── 音楽の質と量は必ずしも調和がとれているとは限らない。だが、単純に作ったものが多くの人達に受け入れられることは、幸せなことでもある。そのバランスを保ち、かつ、幸福に彩られた作品が佐野元春の8作目のオリジナル・アルバム『Sweet 16』だ。

 1992年7月にリリースされたこのアルバムはゴールド・ディスクに認定されている。オリコンのチャート最高位2位。最終的には30万枚を超えるセールスをあげている。このアルバムに先導される形で同年12月にリリースされたコンピレーション・アルバム『No Damage ll』もゴールド・ディスクになり、プラチナ・ディスクを受賞したシングル「約束の橋」も合わせて、この年、佐野は三冠王を達成している。

 チャック・ベリーの「Sweet Little Sixteen」にインスパイアされたアルバム・タイトルや、バディ・ホリーを彷彿させるロックンロール・ナンバー、そして彩り鮮やかなチェリーパイの写真を全面に配したジャケットなど、いたるところから瑞々しさや若々しさがあふれだす。それは“つまらない大人にはなりたくない”と歌った佐野の何度目かの原点回帰だ。前作『TIME OUT!』で“ぼくは大人になった”と宣言し、その音像は静謐で成熟したものだったのとは対照的である。

「レインボー・イン・マイ・ソウル」や「エイジアン・フラワーズ」、「また、明日...」などのスマッシュ・ヒットを含む、'90年代の代表作というべき秀作は、時代の需要と供給のバランスがとれた稀有の例だ。『Sweet 16』は質と量の調和がとれた幸せな作品といっていいだろう。

 余談だが、佐野本人がこのうれしい受賞のことを知ったのは、受賞から何と2年後。マネジメント事務所の隅にひっそりと置いてあったトロフィーを見てはじめてその事実に気づいたという。驚くべきエピソードだ。

(市川清師)



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