佐野元春『HAYABUSA JET II』

評論 ─ 佐野元春 & ザ・コヨーテバンド『HAYABUSA JET II』『HAYABUSA JET II』を巡るテキスト

歌は、どんなふうにして時を超えて生き続けるのか

萩原健太

 別にふざけているわけじゃないけれど。“今どこ”ならぬ“今ここ”。  『HAYABUSA JET I』『同 II』と連なるハヤブサ・ジェット・プロジェクトで佐野元春がぼくたちに思い知らせてくれたのは、彼がコヨーテ・バンドとタッグを組む以前──1980~2000年代に放ったメッセージを、分け隔てなく、すべて等距離で、コヨーテ・バンドを率いて“今ここ”へと結集させようとしているのだ、ということ。

 まあ、そのあたりのもろもろについては、きっとみなさんがそれぞれの視点から的確に論じていらっしゃるに違いないので。今回はあえて、細部にこだわらせていただきますが。『HAYABUSA JET I』に関して話を聞かせてもらった際、佐野元春はこんなことを語っていた。

 「古くからのファンはオリジナルと比較することで、“あ、ここ面白いね”“いや、ここはどうなんだろう……”みたいなことを思って楽しんでくれればいいな。しかし、ぼくが今回『HAYABUSA JET I』を作っていて思ったのは、やっぱりフューチャー・ジェネレーションのことだよね。新しい世代と新しい約束を交わせたらいいなという、そういう思いがありました」

 ひとつの事象に対し、レイヤーを幾重にも折り重ね、その最前面に位置する世代との交歓にこそ注力する──なるほど、当然だ。今の時代に呼吸するクリエイターにとって、それこそが最大の使命なのだから。

 が、ぼくの場合、言うまでもなく“古くからのファン”のひとり。なもんで、佐野元春が今、かつての自作曲をどう変えたのか。何を捨て、何を拾い上げたのか。そこにこだわりながら、彼の現在を受け止めたいと思っている。それだけに、この一連の再定義プロジェクトに関しては、やはりオリジナル・ヴァージョンから大きくアプローチを変えた楽曲ほど、わくわく楽しめるのだ。

 前作『I』で言えば、マイナー・キー基調にコード感が変更された「だいじょうぶ、と彼女は言った」とか、“Dream, Dream…”というコーラスがすっかり消えてしまった「欲望」とか、あるいはコード進行とメロディが改訂され、アレンジも大きくインディ・ロック方面へと舵を切った「君をさがしている」とか。それらが思いきり刺激的に、ぼくの耳を覚醒させてくれたっけ。

 今回の『II』でも、そんな瞬間をいくつも体験できる。たとえば「太陽」。キーは同じだが、アコースティック・ギターの弾き語りでゆったり展開していくオリジナル版に比べ、今回は冒頭からメロトロン風の音色をフィーチャーした豊かなバンド・サウンドが炸裂する。そして途中のリズム・チェンジだ。バンドが一丸となって、まるでひとりの弾き語りのように機能する。その自在な歌心に、佐野とコヨーテ・バンドの一体感と信頼関係を改めて感じた。歌詞の変化も印象的だ。佐野元春はここで、原曲で執拗に繰り返されていた “GOD” という語をいっさい歌わない。その背後にどんな思いが託されているのか……。

 「吠える」もごきげんだ。原曲は「ハッピーマン」。ぼくたちのような世代にしてみると、“吠える”という表題はアレン・ギンズバーグの詩集を想起させるわけだが──それも織り込み済みでの改題だろう。「ハッピーマン」のキーはA。高揚感に満ちたコード進行のもとに展開する、前のめりな8ビート・ロックンロールだった。が、今回はキーをEに変え、重心を低く構えたコード進行のもと、ロカビリー的な2ビートをも感じさせるアレンジへと姿を変えた。メロディも刷新され、歌詞からも多くのワードが削ぎ落とされた。いくつかの英単語は落ち着いた日本語表現へ。そして、吠える。シャウトする。破壊でもない。無頼でもない。存在を確かめるために。これこそ今の自分だ、と。

 まあ、個人的な好みとしては、原曲にあった “お前のトーチライトで夜を照らそう” というフレーズを、誰にも真似できないビート感で躍動させる若き佐野元春の歌いっぷりに胸躍らせていただけに、その部分が “今すぐ君の光放って” と大人な表現に変化していた箇所が、物足りないっちゃ物足りない。が、それはオリジナル「ハッピーマン」をこれからも聴き続ければOK。どちらも楽しめる。問題なし。

 もちろん、基本的なアレンジはそのままにキーだけを変えた曲──たとえば「レイン・ガール」あたりの感触も楽しい。『月と専制君主』で再演されたときは、ワルツというか三連というか、そういうアプローチにがらりと変えられていたが、今回のリズム・パターンはオリジナル通り。だが、キーを下げたことや、渡辺省二郎によるボトムのどっしりしたミックスなどが相まって、より太く圧倒的なグルーヴを今の時代に投げかけてくる。ほんと、どの曲もあなどれない。

 歌は、どんなふうにして時を超えて生き続けるのか。──佐野元春の、現在進行形の試行錯誤が、その答えをぼくたちに届けてくれる。