佐野元春『HAYABUSA JET II』

評論 ─ 佐野元春 & ザ・コヨーテバンド『HAYABUSA JET II』『HAYABUSA JET II』を巡るテキスト

新たな元春クラシックス

今井智子

 『HAYABUSA JET I』がリリースされたとき、「“I”ということは、もしかして“II”も?」と、ほんのり思った。とはいえ、わずか8ヶ月で『HAYABUSA JET II』が登場するとは想定外だった。ただ、落ち着いて考えてみれば、ザ・コヨーテ・バンドとの活動もすでに20年。数え切れないほどのライヴを経て、初期曲を含む佐野元春のレパートリーを演奏し続け、元春クラシックスに新たな息吹を与えてきた。その中から、佐野が“再定義”すべき曲を見出してきたのだろうと想像すれば、短期間で新作が登場したのも納得だ。今あらためて、本シリーズがザ・コヨーテ・バンドとの“新作”としてリリースされている意味へ思いが向かう。

 『I』は元春クラシックスの中でも重要な初期曲が中心だったため、楽曲自体に意識が向いたが、『II』はバンドとの演奏という視点から捉えてみたい。幕開けの「君を思えば」は、1999年に「Innocent」と題したシングルとしてリリースされた、プライベート・スタジオでセルフ・レコーディングした珍しい曲だ。この曲も収録した『THE SINGLES EPIC YEARS 1980-2004』のセルフ・ライナーで、佐野は「このレコーディングは楽しかったが、限界も感じて、バンドで録音することへの思いが募った」と記している。今回の「君を思えば」は、ザ・コヨーテ・バンドの温かみのあるサウンドが包容力をもって佐野の歌を支え、“ありがとう”という飾らない言葉で始まる歌い出しが、聴くものの心を開いてくれるのだ。

 今回“再定義”された曲の中で最もイメージが一新されたのは「吠える」だ。オリジナル「Happy Man」は、初期の佐野らしい軽快なポップ・チューンで、お気楽なシティボーイの歌という趣があった。しかし「吠える」ではコードもメロディも歌詞も大幅に変えられ、鋭いメッセージを宿した、もはや新曲と言っていいほどの仕上がり。ここまで大胆な再定義を施した理由や経緯を、いつか本人にぜひ聞いてみたい。

  オリジナルもドラマチックだが、新たな物語を感じさせる「太陽」、やはり歌詞が少し変更されてストーリーが新たに続いていくように感じる「レイン・ガール」は、今そしてこれから聴いていくべき曲として”再定義”されている。オリジナルとは一味違うグルーヴで聴かせる新しいシャツは、深沼元昭と藤田顕のギター、渡辺シュンスケのキーボード、そして高桑圭のベースに小松シゲルのドラムがクッキリと聴こえてくる。ザ・ハートランドに敬意を払いながらザ・コヨーテ・バンドらしさを発揮した演奏が”再定義”を感じさせる曲だ。

 「訪問者たち」「君を汚したのは誰」「新しい世界」はいうまでもなく『VISITORS』からの曲。ニューヨークで暮らしながら作ったこのアルバムは佐野にとって大きなターニング・ポイントだったし、楽曲には当時の彼が持っていた熱量が爆発していた。当時は斬新だったヒップホップは今やポピュラー・ミュージックの一部どころかメイン・ストリームになっている。佐野の先見の明を改めて感じると同時に、少し肩の力を抜いた新たな元春クラシックスとしてザ・コヨーテ・バンドとともに”再定義”しているのが心地よい。たぶんライヴで演奏するたびにメンバーたちと様々なアレンジを試みたりして、ここに至っているのではなかろうか。そんな歴史にも思いを馳せたくなる楽曲たちだ。

 そう思えばザ・コヨーテ・バンドと演奏して来た”再定義”されるべき楽曲は、まだまだたくさんあるはず。ザ・コヨーテ・バンドと進む未来への布石として『HAYABUSA JET』シリーズは続いていくのに違いない。その期待を抱きながら、新曲を聴くことができる日を待っていたい。