佐野元春 | VISITORS 20TH Anniversary Edition


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08 12インチ・シングル

Text : 岩本晃市郎

 12インチ・シングルとは、通常1〜3曲を収録した直径が12インチ(33cm)のアナログ・ディスクを示す。したがって、サイズはLPレコードと同じだが、7インチ(17cm)のシングル盤と同じ45回転で聴く。


 12インチ・サイズのシングルは、80年代初期に登場し、新しい表現形態としてブームとなった。佐野元春はこの形態にいち早く注目し、84年4月21日、アルバム『VISITORS』に先駆け、同アルバム収録曲「トゥナイト」を7インチと12インチ・シングルの二つの形態で同時にリリースしている。

 7インチ盤は「シェイム」がカップリング曲として選ばれたが、12インチ盤には「トゥナイト」のスペシャル・エクステンデッド・クラブ・ミックス・ヴァージョンとインストゥルメンタルが収められ、12インチ・シングルが7インチのシングルとは異なったものであることを表していた。

 つまり12インチ・シングルとは、このインストゥルメンタルが示すように、A面曲とは異なったテイクやミックス、さらにはオリジナルのエディットが施された楽曲を収録したものであり、単にサイズが大きくて、回転数が早いシングル(少しだけ音が良い)という、物理的な側面からだけではとらえることのできない作品形態を意味している。そしてこの形態こそがアルバム『VISITORS』が内包していたヒップポップ・カルチャーであり、急速に伝播していく“リミックス”という手法の先駆けとなるものである。

 オリジナルの楽曲を加工し、アーティストのクリエイティビティをオーディエンスに配布するその手法は、佐野元春が発した12インチ・シングルという形態によって日本国内に紹介され、以後多くのアーティストがそれに続いた。

 佐野元春はこの「トゥナイト」の他、「コンプリケーション・シェイクダウン(Special Extended ClubMix)/ワイルド・オン・ザ・ストリート(Special Extended Club Mix)」(1984年6月)、「ヤングブラッズ(Special Dance Mix)/(7inch Version N.Y. Mix)/(Instrumental)」(1985年3月)、「クリスマス・タイム・イン・ブルー(Vocal Extended Dub Mi)/(Vocal OriginalVersion)/(Insturumental Orchestra Version)」(1985年11月)、「99ブルース(ExtendedMix)/月と専制君主(Extended Mix)」(1987年6月)、「インディビデュアリスト(ExtendedMix)/(Dub Mix)/(Live)」(1987年11月)といった12インチ・シングルをリリースしている。

 ヒップホップという手法を誰よりも早く日本語でやってのけたのも佐野元春だが、その新しいカルチャーとは切り離すことのできないパッケージングにおいても彼は先駆者であったと言ってもいいだろう。

 なお、1984年には「コンプリケーション・シェイクダウン/ワイルド・オン・ザ・ストリート/カム・シャイニング」(EPIC 49-05076)の3曲入り12インチ・アナログ・ディスクがアメリカでリリースされた。





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08 12インチ・シングル






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