05 | ぴあムックス「The Circle of Innocence」
1993-1994



 書籍『The Circle of Innocence』は、1993年、ぴあムックスシリーズの一冊として発刊された。豪華なハードカヴァーより、ポケットにねじりこんで街に持ち出せるコンパクトなペーパーバック、この『The Circle of Innocence』はそんな気軽なイメージのアーティスト・ブックだ。

 だが、その中身はハードカヴァー以上。第1章「リスペクト」から第12章「イノセンスとグローイング・アップ」まで、各章のテーマに関連する映画、書籍、レコードなどの紹介、多彩なコラムなど、さまざまな角度から佐野元春の世界の背後に横たわる精神の系譜を立体的に浮かび上がらせる好企画だ。もちろん佐野元春自身のインタビューやモノローグも豊富。

 この本はまた、アルバム『The Circle』のサブ・テキストとしても重要な意味を持っている。このアルバムを制作するに至った魂の遍歴、迷いに囚われていた時期の苦しみ、そしてこのアルバムを理解するうえで欠かせない「イノセンスの円環」という考え方。ロング・インタビューでは率直に、そして情熱的に、アルバム『The Circle』とそれをめぐる固い決意が佐野の口から語られる。

 

 もうひとつ見逃すことができないのは、アルバム『The Circle』に参加したオルガン奏者であり、シンガーのジョージィ・フェイムとの対談。これを読めば佐野がなぜこのアルバムに彼を必要としたかが分かるだろう。偉大な先達の精神を受け継いでいこうとする佐野の意志が明らかになる対談だ。

 尚、このペーパーバックに佐野は、ハートランドからの手紙としてコメントを寄せている。佐野のオフィシャルサイト「Moto's Web Server」にそのリソースが公開されているので参考にしてほしい。

●参考資料
ハートランドからの手紙#65
ハートランドからの手紙#67


(西上典之)



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